01Short Story

【特典SS】チョコレートが食べたいけど……
Title

【特典SS】チョコレートが食べたいけど……

 まずい、まずい、いや、おいしいんだけど、味の話じゃなくてっ!
 後宮では欲しいものは言えばなんでも手に入るってね、言われたら、そりゃお願いするじゃない?
「チョコレートをたくさん」
 お願いしちゃったのよ。
 スカーレット様に頂いて、すっかりチョコレートのとりこよ。
 も、もちろん自分で食べるためだけじゃないからね?
 チョコレートを使った新しいお菓子ができないかと、料理人たちに相談するつもり。
 餅にあんこを入れる代わりに、チョコレートを入れたらどうだろうとか。どら焼きのあんこをチョコレートに代えたらどうだろうとか。あとはかりんとうにチョコをかけてみるとか? いろいろ試して呂国風チョコレートのお菓子とか作れるんじゃないかなぁって。
 そのためには、まずチョコレートとは、なんだろう? から始めるよね?
 つまり、チョコレートに関する本を読むことから始める。うん、情報大事。
 って、本が読みたかったわけじゃなくて、チョコレートのことについて知るためなの! 新しいお菓子をお茶会に出したら話題になるでしょう? 社交の一つなの! だから、必要なことなのです!
 と、誰に言い訳するわけでもなく、もにょもにょ言いながらチョコレートの本を手に取った。
 そして、知る衝撃の真実!
 チョコレートを食べすぎると、鼻血が出る。
「え? 嘘っ!」
 鼻血が出る?
 食べたらすぐ? 食べている途中? それとも時間差?
 食べすぎって、どれくらいの量? スカーレット様からもらったのはほんの少量……あれが適量だとしたら……!
 ど、どうしよう、どうしようっ!
 チョコレートは食べたい、でも、鼻血が出るのはまずい!
 どうしよう……、そ、そうだ!
 困ったことがあれば、苗子に相談すればいいんだ!
「苗子、ねぇ、苗子ぃ」
 苗子の名を呼びながら部屋に飛び込む。
「……鈴華様、どうかなさいましたか?」
「チョコレートが食べたいの、チョコレート……でも、本を読んでいたら……」
 朱国の本を広げて見せると、苗子がすぐに文字を追う。
「肌が荒れる……」
 そこじゃないよ!
「太る……」
 いや、違うって。
「そうじゃないわ、ここよ、ここ、ここを見て!」
 なかなか鼻血の部分に到達しなくてもどかしくて苗子の袖を引っ張った。
「鼻血が出る……?」
「そうなの、そうなのよ! 鼻血が出るんですって、どうしましょう!」
「肌が荒れることや、太ることをどうしようと思っていたわけではないと……?」
 苗子の声がちょっと低い気がするけど。
「そんなことはどうでもいいのよ」
「ど、どうでもいい?」
「鼻血が出たら大変でしょ?」
「それはそうですが、原因がわかっている、チョコレートの食べすぎで出た鼻血であれば、病気でないですし」
 ああ、なんで伝わらないんだろう!
「病気じゃなくたって、鼻血が出たら大変だよ! だって本を汚しちゃうじゃない!」
「本?」
 苗子が首を傾げた。本を読みながら鼻血が出たらどうなるのか知らないのかな?
「そうよ! こう、本を開いて、読んでいるときに鼻血が落ちたら、防ぎようがないでしょ?」
 本を汚してしまうなんて、考えただけで恐ろしい……。涙ですら落としたらショックだというのに……。血の染みを作るなんて……。
「あ、そうだわ! よく考えたら涙が落ちそうな本を読むときは、あらかじめハンカチを目元に当てながら読んでるんだから、チョコレートを食べたら、鼻に布を」
「鈴華様っ!」
 うひゃ。苗子の大きな声に驚く。ええ、いい考えだと思ったのに、なんで?
 鼻に布を当て……いや突っ込んで本を読めば、万が一鼻血が出ても本は汚さないし、チョコレートの食べすぎを気にする必要もないし。
「鼻血が出る心配をする前に、まずはチョコレートを食べすぎないように気を付けることが先です」
 あ、あう……チョコレート、好きなだけ、食べたいの……に……。
「それから、本を抱えているからと、また猫背になっていらっしゃいます。歩くときは背筋を伸ばしてください」
 あわわ! 藪蛇だった!
「最近は忙しくお過ごしだったようで、爪の手入れができていませんね。すぐに手入れをする時間を取りましょう。それから」
 でも、全部私のために言ってくれてるんだよね?
「ありがとう苗子。私のためにいろいろと考えてくれて」
 飽きて終わりにしないでいてくれて嬉しい!
「大好き!頑張るね!」
 苗子が顔を赤くする。途中で言葉を遮ってしまったからちょっと怒った?
 これは、ちょっとご機嫌を……褒めてみる?
「あ、そうだ!苗子はすごいね!朱国の文字もすらすら読めちゃうのね?」
 女官長なら当たり前ですって言われるかな……?