01Short Story

【特典SS】パーティのその後の計画
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【特典SS】パーティのその後の計画

 天王寺の押野グループのホテルで、俺とアヤメ、そして姫の三人で飯を食べていた。
 今後の作戦会議をするためだ。
 ちなみに、ルームサービスで注文したのはハンバーガーセットだ。
 日常的に食べるもの、ホテルで注文したら美味しいんじゃない?
 という提案の第二段だ。
 前のラーメンも最高に美味しかったが、こっちもうまい。ポテトもうまい。なんならドリンクまで美味しい。
「それ、普通のコ〇・コーラよ」
 ホテルでもコーラはコーラだったようだ。
 でも、そこはルームサービス。
 普通の瓶なのに、ルームサービス料や消費税、サービス料込で千円を超える。
 だけど、ライムがついているから、やっぱり違う気がする。
 これが無料で食べられるなんて、持つべきはコネのあるパーティメンバーだって思う。
「泰良もブラックカードがあれば無料で注文できるのに」
 押野グループから貰ったブラックカード。
 これを使えば、押野グループ系列のホテルやレストランはもちろん、ルームサービスの食事やクリーニングなどの各種サービスも全て無料になるというとんでもないカードだ。
 本来はミルクの父の牛蔵さんに渡されるはずだったが、いろいろとあって俺の物となっている。
 最初貰ったときはなんて便利な物だろうと歓喜したものだが――
「これなぁ……なんかいまいち使いにくいんだよ。無料でこんなサービスを受けたら店に申し訳ないって気持ちになってな」
 正直、まだ一度も使ったことがない。
「私に奢ってもらう分にはいいの?」
「こっちはなんか会社の経費っぽいから食べないと損した気分になる」
 経費の飲み食いは最高だって、父さんや兄貴が言っていた。
「やっぱりEPO法人になるのは必須よね。税制優遇はともかく、ダンジョンの優先入場権は捨てがたいわ。それに、ダンジョン局からの未公表の情報を回してもらえるし、開発されたばかりの魔道具なんかも優先的に購入できるそうよ」
 お金に余裕のある姫はそう言うけれど、俺には税制優遇のほうが大切だ。
 両親からも税理士に相談するように言われている。
 ただ、EPO法人か……と俺が考えていると、アヤメが小さく手を挙げて尋ねる。
「EPO法人ってギルドのことですよね? そう簡単に登録できるんですか?」
 その質問には姫ではなく俺が否定する。
「認可される数は三十って決まってるんだろ? 三人しかいない、組織とすら言っていいかわからないパーティなんだから通るわけないじゃないか」
「よく知ってたわね。申請はしてみるけど、まず通るはずがないわ。でも、別に今すぐってわけじゃないのよ。三年以内の登録を目標にしましょって話」
 姫がポテトを食べて言う。
 三年って、俺たちのお試しパーティの期間は一年間じゃなかったか? 別に一年後には解散したいって気持ちはないけれど、姫の中で、三年先も俺やアヤメがいることはもう確定事項のようだ。
「社名は何がいいかしら?」
「社長は姫なんだから、姫が決めてくれ」
「EPO法人の申請が通ったなら、社長じゃなくて理事長なだけどね。本当に私でいいの?」
 姫が再確認してきたので、俺もアヤメも頷いた。
 俺のネーミングセンスは壊滅的だということくらい自分でもわかっている。
 でも、このままなし崩し的に姫が作った会社に入っていいものだろうか?
 牛蔵さんからもEPO法人に誘われていたんだけどな。
「じゃあ、考えておくわ――あら?」
 姫がハンバーガーにかぶりついて、そして驚いたように言った。
「このハンバーガー美味しいわね」
「押野さんはアメリカにいたんですよね? ハンバーガーはアメリカのほうが本場なんですからあっちのほうが美味しいと思ったんですが、違うんですか?」
「私、あっちだとハンバーガーとかほとんど食べなかったのよね」
 姫が自慢する様子もなく言った。
「さすがお嬢様だな」
「そういう意味じゃないわよ。私は母を含めて、周囲も日本人も多かったから和食のほうが多かったってだけ。一番仲のいい付き人も日本人だったし」
 アメリカで和食の生活か。
 まぁ、和食は身体にいいから欧米で人気が高いって聞いたことがある。
「だから、日本に来たときにちょっとがっかりしたの」
「がっかり?」
「日本だったら本場のカリフォルニアロールが食べられるって思ったのに、こっちの寿司屋には置いていないのね。私、あれが好きなのよ」
 そりゃカリフォルニアロールっていう名前なんだから、日本にあるわけないだろ。
 姫ってしっかりしてるようで、日本のことはあんまり知らないんだな。
 そう言おうとして口を噤んだ。
 そういや、あんな派手な忍者衣装を着てダンジョンに来る奴が日本の常識を知っているわけがなかった。
 それに気付いていたのに、俺は大切なことを失念していた。
 物凄く頭がいいのに変なところで常識のない姫。
 彼女に俺たちが所属することになる会社の命名を任せて本当によかったのか?

 その結果を知るのは、少しだけ先の話である。