01Short Story特典SS
【特典SS】家族でお買い物
「わぁ」
私、ウェリタはあたりをきょろきょろと見渡しながら、落ち着かない様子を見せてしまう。
「ウェリタ、落ち着け」
手を繋いでいるクリティドからそう言われて、私ははっとする。少し恥ずかしくなって、空いている手で口を押える。
「母上、お店は逃げないよ」
「楽しそうですね」
前を歩くクリヒムとティアヒムにも笑ってそう言われる。二人ははぐれないように手を繋いでいて、それもまた可愛いわ。
そう、今日は王都を四人で歩いているの。
王都を訪れたのは王家への報告とパーティーへの参加のためだった。パーティーはもう終わって、後は帰るだけ。
なのだけど、私が王都を歩き回ることなどしたことがないと言ったらお買い物に行くことを提案してくれたの。
いいのかしらと思ったけれど、きちんと護衛をつけるから問題ないんだって。護衛が何処にいるのかさっぱりわからないけれど。
あとはクリティドたちが一緒にいるから、私が魔法を使えない状況でも問題がないと言われたわ。
私の魔力回路は未だに傷ついたままで、魔法を使わないほうがいい状況。でもそんな私のことなんてクリティドは簡単に守ってしまうのだろうな、と想像するだけで、かっこよくてときめく。
こうしてお忍びで王都を歩くことになるなんて、思ってもみなかった。こんな幸せな光景が目の前にあるのは、私がクリティドに救われたから。
まず最初に私たちが向かったのは、王都でも有名な洋服店。
公爵家ともなれば屋敷に直接商人を呼ぶこともできるけれど、今回は家族で王都を歩くことを目的にしているから直接赴くの。
「まぁ、よくいらしてくださいましたわ」
お店に顔を出すと、店員の一人がそう言って声を掛けてくる。
おそらく私たちがクーリヴェン公爵家だとはわかっているだろう。だけれどもお忍びでこうして此処に来ていることもわかっているからか、その名は出さないでいてくれていた。ただ店員が付きっ切りで対応していたので、周りから「どこの家の方かしら?」と囁かれていたけれど。
「奥様、こちらはいかがでしょうか?」
そう言って見せられる普段着やドレスなどを、確認する。
やっぱり高価なものを購入するのは遠慮してしまいそうになるけれど、私も公爵夫人として生きていくのだから
しっかりしないといけないわ。そういうわけで少しずつ公爵夫人としての品格に釣り合う高価なものにも慣れていこうとしているけれどね。
「ウェリタ、これを買おう」
「母上、これがいいかと」
「このドレス似合いそう! お姫様みたい!」
ただ三人とも私のものばかり見すぎだわ! 折角こうして家族で買い物に来ているのに私の物ばかり見るのは駄目だわ。というか、私がクリティドや子どもたちのものを見たいもの。
「私のものはこの位でいいわ。クリティドたちのものを選びたいわ」
私がそう口にしてからは、クリティドや子どもたちの衣服を選ぶことになった。三人とも私が試着してほしいと
言ったら躊躇いなどせずすぐに着替えるのよね。
「かっこいいわ」「かわいい!」
そんな風に三人を見て私が喜んでいたら、それだけで三人とも笑っていた。
結局思ったよりも沢山購入してしまったわ。すべて王都の屋敷に一度運ばれてから、領地に持って行ってくださるみたい。
流石、公爵家はお金に余裕があるのねと改めて実感する。
洋服店の後は、料理が美味しいというレストランに向かったわ。貴族やお金持ちの商人などもよく訪れるようなの。ただ平民向けのサービスもしているようだけれどね。
今回は家族でゆっくり過ごせるようにと貴族用の個室をクリティドが予約してくださったの。こんなに素敵な場所で食事をできることに興奮してしまうわ。
食事が美味しいのはもちろんのことだけれども、お店の雰囲気というのも大事よね。あとは誰と一緒に食べるかも。
今回はクリティドと子どもたちと一緒に此処に来られて、私は大人なのにはしゃいでしまっているわ。
「料理名を見ただけでも美味しそうだわ。どれを頼もうかしら」
美味しそうな料理名が並んでいて、どれを食べようか悩むわ。
私は前世から食べることが好きだったから、こういう素敵な飲食店に来られると余計に嬉しくなるわ。
「なんでも頼むといい」
「でもあまり頼みすぎても入りませんわ」
「そんなに沢山食べないのか?」
「ええ。……私はそんなにいっぱいは食べられませんから、厳選しなければならないので悩みます」
私の言葉を聞いて、クリティドが笑う。ああ、私、この優しい笑みが好きだなと何度も思う。
「これから王都に来ることも多いだろう。何度でも来られるのだからそれで好きなだけ食べればいいんじゃないか」
「まぁ、それもそうですわね。ふふっ、何度もここを訪れて、メニューを全制覇するのも楽しそうだわ」
クリティドの提案に私は嬉しくなってそう答える。
同じレストランに何度も通って、美味しい料理を堪能するなんてとても素敵なことだわ。全制覇するのもいいわよね。とはいえ、王都のレストランだと流行を敏感に察するはずだから、次々と新しい料理も生み出されるのかしら。
全制覇しようとしても、また来た時にはメニューが一新されているということもありそうね。いや、でもそれはそれで楽しいわね。
「母上、こちらはどうですか?」
「僕は何食べようかなぁ」
ティアヒムとクリヒムもとても楽しそうだ。
なんだかこうして皆で、ああだこうだと料理を選ぶのも楽しいわ。
「クリティドは何を食べます?」
「君が食べたいものを頼もうと思って」
「え? もしかして私に分けてくださろうとしてますか? 駄目ですよ。自分の好きなものを食べないと」
「私はウェリタが喜んでいる姿を見るのが一番嬉しいから。だから気にする必要はない。私が食べさせたい」
「もう……っ。クリティドは私のことを甘やかしすぎですわ。ではお言葉に甘えて……私がクリティドの分も選びます」
そう口にすると、クリティドは笑った。
それから四人で食事を摂ったのだけど、それはもう美味しかったわ。私はステーキを食べたの。クリティドに頼んでもらったのは、前世でいうシチューのようなものよ。私が両方食べたいからと、分け合ったのだけど、あーんをされて少し恥ずかしかったわ。
個室だから誰かに見られる恐れはないけれど、でもね、子どもたちの前でこう……そんな風にされるなんて恥ずかしかったわ。
ティアヒムは「どうぞ」といつも通りだし、クリヒムは「父上と母上仲良しだね」とにこにこしていたけれど!
もちろん、デザートも食べたわ。とても美味しくてまた幸せな気持ちになった。
「とても美味しかったですわ」
レストランを後にする時に料理人の方に声をかけると驚くほどに喜んでいたわ。
クーリヴェン公爵夫人である私に褒められるというのがそれだけ嬉しいことだったみたい。また王都に来た時に訪れるという約束もしたらさらに喜んでいた。
「クリティド、今日はお出かけに連れ出してくれてありがとうございます」
その後、また街中を探索して帰宅する。
「私も楽しかった。またこうして出かけよう」
「はい。その時が楽しみですね」
クリティドも楽しんでくれたみたいで、私は嬉しくなった。
こうして次の約束を家族でできることはとても幸せなことだ。今回訪れたレストランにもまた行きたいけれど、他にも素敵なお店がないか聞き込みをしておこう。私はそんなことを決意して笑うのだった。